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2024年2月16日

【開業お役立ち情報】診療圏調査について

『医師のとも 開業』では、HPとメールマガジンに掲載してご案内する年間1,500物件全てで診療圏調査を行っていま

皆様が知っているようで、実はわかりにくい診療圏調査について紐解いてみたいと思います。

 

◆時間のない方はここだけ読めばOK

良いと思った物件がある場合、診療圏調査結果を気にしすぎてはいけません。

診療圏調査とは、「エリア人口×受療率(厚労省の集計による値)」で算出するエリア全体の患者数を、競合医院数で割って自院で見込める患者数を調べるというものです。

理にかなってはいますが、個別の状況を考慮していない単純計算のため、そこまで精度の高いリサーチではありません。

診療圏調査はあくまで目安であり、一番の目的は「銀行提出のため」かもしれません。
 ※開業資金の調達で銀行融資を受けるには、事業計画書と共に提出を求められます

「診療圏調査結果が良いからここにする」
「診療圏調査結果が悪いからここはやめた」
と安易にふるいに掛けるのはダメです。

診療圏調査を無視することはできませんが、過信しないようにしていただきたいと思います。

 

◆診療圏調査についてもう少し詳しく

広義での診療圏調査とは、指定した地点で開業した場合に、どの程度の外来数を見込めるのかという試算です。
商圏調査・市場調査という名称で各業態が出店の際に行うエリアマーケティングの診療所バージョンです。

特に保険診療の場合に、開業地を選ぶ指標のひとつとされます。

医療同様にエビデンスが重要な金融機関では、融資相談の際に事業計画書や経歴書とともに提出を求められます。

 

都市部や近郊エリアでは、候補地(サンプルでは東京タワー)を中心とする半径500mと半径1,000mを対象エリアとします。
一次・二次診療圏における人口から来院患者数を計算するのが一般的です。

 ※婦人科や泌尿器科、脳神経外科など、医院数が少ない科目の場合は、診療圏を広く取ることがあります
 ※郊外では診療圏を広く取る必要があります

なお、診療圏調査で言われる人口とは、一般的には国勢調査による居住者数(夜間人口)を指しています。
しかし『医師のとも 開業』の診療圏調査では、全ての地点において夜間人口だけではなく「昼間人口」(就業・就学で訪れている人数)も加味した予測値を算出しています。
夜間人口と昼間人口のどちらも対象とすることで、当該地で開業する際の実態に近い予測を出すことができます

対象人口の中から、厚労省が出している「受療率」に沿って「地域患者数」を算出できます。
地域患者数を、診療圏内で同科目を標榜しているクリニック数で割ったものが推計される「来院患者数」(サンプル図1、赤枠の数値)となります。

(サンプル図1)診療圏内における人口から、競合院の数と位置を考慮したアルゴリズムで調査地における来院患者数を割り出す

 

 

(サンプル図2)各地域における人口の多さもわかります

 

 

◆診療圏調査との付き合い方

診療圏調査を盲信してはいけないのですが、複数物件を比較検討するにはわかりやすいのでぜひうまくご活用ください。

システムでポンッと出た値の比較だけでも、エリアのポテンシャルを推測するには十分です。
正確な患者数の予測値を得るには他にも複数の要素を考慮する必要がありますが、10の候補物件を5に絞り込むといった用途では有用なツールです。

ただし複数物件の比較検討には、必ず同じ診療圏調査システムを使いましょう。
診療圏調査システムは5種類以上あります。
違うシステムでは、同じ候補地で調べても多少異なる数値が出てきてしまう可能性があります(アルゴリズムが異なる)。

多くの医師が開業したいと考えているエリアでは、診療圏調査で良い数字が出ることはほとんどありません。

開業相談のほとんどが都市部か近郊エリアご希望ですが、当然そこには既存クリニックがあります。
母数(人口)を割る数字(競合院)が多ければ、解(来院患者数)は小さくなります。

単純な割り算なので、良い数値は出てきません。

競合の多い人気駅でも、徒歩15分以上など駅から離れれば診療圏調査結果が抜群のところはあります。
そういったところにも目を向けてみるのは有効です(駅から遠いところがクリニック経営に適しているかどうかは別のこととして)。

診療圏調査は、時間と労力を掛けて精査したものでない限り、そこまで信憑性の高いものではありません。
無料で手に入る診療圏調査レポートは、基本的にはただの単純計算結果です。割り算です。

ひとまずは周辺の人口と、競合の数や所在地を確かめる程度にご覧ください。

 

◆ここがダメだよ診療圏調査

保険診療で開業する場合には必ずご覧になる診療圏調査ですが、この数字の良し悪しを鵜呑みにするのは早計です。
よくある無料の(市販システムを使った)診療圏調査のダメな点を挙げます。

 

1)競合のカウントが大雑把
ほとんどの診療圏調査は、単純な割り算で患者数を予測します。
当該科目を標榜していれば競合として認識されるため、例えば
 ・高齢院長で、例えば週3日午前のみの診察でも1院
 ・内科医が小児科と皮膚科も標榜しているなど、専門外でも1院
 ・大病院のサテライトで複数科目複数診の大きなクリニックでも1院
というカウントになります。

実態に沿った診療圏調査をするには、各院の状況を個別に確認する必要があります。

盲点なのが繁盛している競合の存在です。
例えば外来数1日100名の内科が近くにあれば、待ち時間を嫌う患者が必ず自院に鞍替えしてきます。
強すぎる競合はむしろチャンスなのですが、これも診療圏調査では読み取れません。

 

2)地理的条件を考慮していない
候補地を中心とした円の中で診療圏を設定するので、住民の生活動線が考慮されていません。
川、線路、大きな道路、坂道などの阻害要因で、近くても行きにくい場所が出てきます。
また、スーパーとの位置関係、駅へのルート、細かいことですが改札の位置などでも人々の動線は影響を受けます。

駅からの距離はもちろん重要ですが、住民の認知を得る上では、生活動線に接しているかどうかというのも大切なことです。

 

3)各データが最新ではない
人口データは、総務省によって5年毎(西暦で5の倍数の年)に実施される国勢調査を基に算出します。
そのため、どうしても年単位のタイムラグが生じます。

近年、特に大都市部においては、高度成長期に形成された都市構造が、再開発によって著しく変化をしています。
二次診療圏である半径1km圏内ともなると、晴海フラッグのように数千人規模で人口が増えていることもあります。
逆に、存続できない自治体が出るという未来予測もあるように、人口減少に伴って医療ニーズも縮小してしまうエリアもあります。

また、競合医院の最新状況も反映されているとは限りません。
新規開院や廃院については、タイムリーに情報を入手して人の手でデータ補正をする必要があります。
近郊・郊外などの小さいマーケットでは、競合院が1件増減するだけで想定患者数は大きく変化します。

 

4)連携を盛り込めない
近隣病院や診療所、福祉施設などとの連携ができるかどうかは、当然ながら診療圏調査には盛り込めません。
既存の競合院は、もしかしたら近くの大病院での勤務を経て独立した院長かもしれません。
近くにまとまっている内科と皮膚科と整形外科が、同門出身で繋がっている仲間かもしれません。

診療圏調査では見えてこない地域医療の状況があります。

 

5)一番大事なアレが考慮されていない
当たり前ですが、消費者は立地だけで店舗を選びません。
この情報化社会において、駅前好立地のチェーン店より、駅徒歩5分の裏通りにひっそり佇む口コミ上位のラーメン屋に行列ができます。

医業は大まかなくくりではサービス業です。
競合がいるエリアでは、顧客はクリニック選択において指標のひとつとしてサービス内容を吟味します。

「一番大事なアレ」とはサービスの質です。
「どんなクリニック(≒どんなドクター)なのか」ということです。

 ・院長のキャラクターや経歴 (優しいか、よく話を聞いてくれるか、信頼できそうか、専門医資格の有無)
 ・スタッフの接遇 (笑顔があるか、言葉使いは適切か、心遣いを感じるか)
 ・医療サービスの特徴 (専門性、必要な機器が揃っているか、適切な検査をしているか、納得できる処置・処方か)

好立地であれば、初診はそれなりに来るでしょう。
しかし、再訪の動機づけに大きく影響するのは、立地条件よりもむしろサービスの質です。
「コンシューマーは感情で動くもの」と認識することが、経営者には重要です。

自院のサービス品質は院長自ら向上させることができますが、開業前に確認すべきは競合院です。
どんなドクターで、診察内容なのかは診療圏調査では見えてきません。

 

◆おすすめしたい診療圏調査の活用法

診療圏調査での単純計算結果を参考にしつつ、競合の状況を推察し、自院・自身がそのエリアで「選ばれるかどうか」で判断してください。

また、皆さん今あるライバル、既存院をとても気にしていますが、開業後にオープンする、これから来る競合があるかもしれません。
新規クリニックには必ずある程度のシェアを奪われます。

診療圏調査に一喜一憂するのではなく、診療圏調査を基に考察し、そのエリアの特性上、ご自身の強みで勝負できるかどうかを見極めていただきたいと思います。
データを使って更に分析を深める場合には、診療圏調査は有益な情報源となります。

コンサルタントにお声掛けいただき、ぜひご活用ください。

 

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